内閣府の「令和5年度 男女の健康意識に関する調査」によると、月に3日以上体調が悪いと回答した人は、20代では女性が39.1%(男性24.8%)、30代は女性38.2%(男性28.0%)、40代は女性37.2%(男性28.1%)と、女性のほうが多い傾向にありました。女性は毎月の生理や更年期症状があるため、男性よりも体調が悪い日の頻度が高いことが推察されます。しかしこうした性差があっても、職場では男性と同じように働くことが求められており、特に長時間勤務など労働環境が厳しい職場では、働く女性の体調に負担がかかっているようです。多忙すぎて食事や通院もままならないというリアルな声とともに、産婦人科医であり、産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生のアドバイスを紹介します。

(※関連記事:不調を抱える女性従業員を減らす近道!朝食欠食者を減らす。栄養おやつの提供関連記事:休暇制度だけでなく、朝食やランチの提供で従業員の健康をサポートも是非ご覧ください)

4コマ漫画。忙しく働く女性「ない…!マジでない!休憩どころか昼ごはんの時間すら ない!」夜になり、ぼろぼろの状態で帰路につく女性「やっと終わった… 結局今日もゼリーしか食べてない…  スーパーはもう閉店… コンビニで済ます日々… どうしよう… このままじゃ… 限界を迎える時も近いだろう」貧血や栄養不足、寝不足、PMSが女性を襲っている
漫画/さわぐちけいすけ

働く女性の声

※コメントは漢字や表現など一部変更しています。

  • 私の職場は長時間労働が常態化していて、残業のため「夕食」の時間に食事をとるのは無理、毎晩「夜食」か「深夜食」をとって倒れるように眠り、朝は何かを食べる余裕もなく必死で出社している。ストレスで深夜に甘いものをドカ食いしたりするのと、運動をする余裕もないせいでかなり太ってしまったし、肌の調子も体調も悪く、生理痛もひどくなった。女性の健康と長時間労働問題は表裏一体だと思う。

  • 仕事が多忙なため、昼食は机でPC作業をしながらサンドイッチやおにぎりをつまんで済ましている。繁忙期や会議が続く日はそれすら難しく、何も食べられないまま深夜まで残業することも。学生の頃は規則的だった生理周期は不安定になり、数カ月ぶりに来た生理では大量出血して倒れそうになった。

  • 仕事がハードで生理が止まってしまった。「ストレスが減ったら改善するでしょう」と医師には言われたが、今の仕事では難しい。生理痛が重い人が生理休暇を使えるようにすることも重要だが、そもそも生理が来なくなってしまった人へのフォローも欲しい。

  • PMSの時期に忙しくて食事がとれず、空腹のイライラが重なった状態で残業するのは、まさに地獄。周囲の人にもきつい物言いになってしまっている自覚がある。

  • うちの社員食堂のメニューは揚げ物などボリュームのある定食と、ラーメン、カレーくらい。更年期でコレステロール値に気をつけないといけない私としては、もっと栄養バランスのいい食事をとりたいが、男性から「食べた気がしない」などとクレームが出るため難しいのだそう。従業員の約半分は女性なのに、どうして食の嗜好まで男性に合わせないといけないのか不満に思う。ヘルシーな食事を提供したほうが、会社全体の健康づくりにもいいはずなのに。

  • 私は生理痛が重く低用量ピルが欠かせないが、平日は毎日18時まで仕事で、隔週で土曜日出勤もあり、有給休暇は年10日しかないため、婦人科に通院するスケジュール管理が大変だ。せっかく行ったのに臨時休院だった時は、薬をしばらく飲むことができず本当にしんどい思いをした。職場に通院休暇などが導入され、男性や総務担当の理解も進んで制度が利用しやすくなれば、もっと円滑に仕事に集中できるのにと思う。また低賃金のため、できれば通院の費用補助も欲しい。

  • 職場ではランチで外出するのはもちろん、トイレで席を外す時間もまともに取れず、残業が多いため病院の診察時間に間に合わない。せっかくの土曜日をつぶして婦人科に行くと、混んだ待合室で2時間近く待たされる。営業で外回りの男性が「出先で美味しいランチの店を開拓した」「アポの合間に歯医者に行ってきた」などと話しているのが本当にうらやましい。忙しい内勤の人のために、通院の時間休を認めてほしい。

産業医・産婦人科医から

長時間労働や不規則な勤務などの過酷な労働は、性別を問わず様々な健康への悪影響があり、社会全体での対策が急務とされています。とりわけ女性には、生理に関連した症状などにより、周期的または突発的な心身の負荷がかかることでパフォーマンスが低下し、症状の悪化に拍車がかかったり、生活の質が著しく損なわれたりすることが少なくありません。時間や気持ちにゆとりがある日は、セルフケアとしてできることを、ぜひ意識的に取り組んでみましょう。

例えば食事の見直しです。朝食を食べない「朝食欠食率」は若い世代で高く、20代女性では23.6%、30代では15.1%というデータがあります(厚生労働省 平成29年度国民健康・栄養調査)。しかし、忙しくて食事を十分に取る時間がない生活を送っていると、栄養不足により貧血や不定愁訴が起きやすくなり、集中力の低下やうつ気分を招いてしまいます(関連記事:病気ではないけれど快調でもない“なんとなく不調”。女性に多い「不定愁訴」への対処法は?)。忙しくても、まずは朝食を取る習慣、そしてたんぱく質や野菜、豆類など良質な栄養の摂取を心がける習慣を身に付けましょう。また短時間でも身体を動かす習慣や、瞑想などのマインドフルネスを行うなど、自分なりのストレスマネジメント法を見つけておくのもいいですね。結果的に仕事と生活の質が大きく向上するということを意識してほしいと思います。

またストレスや体重減少などで生理が3カ月以上停止してしまうことを続発性無月経といいますが、無月経の状態が続くと、ホットフラッシュなど更年期のような症状が出たり、子どもを産むための妊孕性(にんようせい)に悪影響を及ぼしたり、将来、骨粗しょう症のリスクも上がるため、放置せずに婦人科を受診していただきたいです。地域やクリニックによっては待ち時間が長くなることは心苦しく思いますが、仕事のために受診や治療を先延ばしにして、将来の健康にリスクを及ぼす働き方は避けてほしいと思います。そして企業側も、長時間労働や人材配置を見直し、生物学的な性差を意識した配慮や支援を検討することが求められています。

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飯田美穂さん
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 講師

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。