PMS(月経前症候群)とはPremenstrual Syndromeの略で、生理が始まる3~10日ほど前から心身に不快な症状が現れ、生理が開始すると症状が無くなったり軽くなったりすることをいいます(関連記事:生理痛よりも悩みが深い? PMSにどう向き合う)。イライラや情緒不安定など精神症状に悩む人が多いですが、腹痛や頭痛、腰痛、むくみなどの身体症状もあり、症状は多岐にわたります。PMSは出血のある生理と違って時期が分かりにくく、認知度も低いため、職場でも誤解や理解のなさに苦しむ人も多いようです。産婦人科医であり、産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生のアドバイスとともに、働く女性から寄せられたリアルな声を紹介します。

働く女性の声

※コメントは漢字や表現など一部変更しています。

  • PMSと、仕事のプロジェクトがうまくいかないタイミングが重なり、普段なら泣いたりしないのに職場で泣いてしまい、とても自己嫌悪に陥った。

  • 毎月、決まった時期になるとわけもなく泣いてしまい、職場にいづらくなり退職した。今になって思えばPMSだった。

  • PMSの期間中はイライラするせいで同僚の悪いところばかりが気になって態度に出てしまう。後日、反省するが孤立を感じる。

  • 生理直前のPMS症状がつらく、抑うつ感や倦怠感、集中力の低下、頭痛・腹痛などが起こる。仕事に集中できずに何度も席を立ったり、いつもはしないようなミスを連発したりして同僚に迷惑をかけてしまい心苦しい。

  • PMSによるメンタル不調で、後輩の小さなミスも許せなくなってしまい、強く指摘してしまう。

  • 私は保育士をしているが、毎月、PMSでメンタルバランスがひどく崩れ、態度にも出てしまったり、同僚の些細な言動や行動に必要以上にネガティブになったりする。

  • PMSのイライラや倦怠感を職場では隠すよう努めているが、家庭では反動が出てしまい、感情を爆発させてしまう。

  • PMSの期間はイライラして、人に当たりたくなる。在宅勤務が選べたらいいのにと思う。

  • 私はPMSがとても重く、1週間以上続く。生理痛だと説明しやすいが、PMSは知名度も低く説明しづらい。

  • PMSで業務中に立ちくらみ、めまい、手足のしびれ、視界が白くなって見えにくくなる、呼吸が荒くなる、勝手に涙が出てくるなどの症状で仕事どころではなくなり、早退した。

  • 生理前になると小さなミスでも気分が沈み、周りから責められているように感じ、死にたくなるほど落ち込んでしまう。

  • 私はPMDDがひどい時期があり、メンタルに不調をきたして休みが続いてしまったが、自分自身でも「サボりなのではないか?」と責める思いがあり、周囲にもうまく説明できず、もちろん理解もされず、苦しい思いをした。

  • PMDDの症状があったときは、1カ月のうち10日以上はメンタルの状態が悪く、精神科で投薬治療を受けていたが、喜怒哀楽の4つの感情のうち、怒哀楽をコントロールするのが大変だった。仕事にも大きく影響し、上司・同僚など周囲の理解がまったく得られず、むしろ誹謗中傷がひどかった。上司から何度も退職を迫られ、実際に退職した。

  • PMS中は職場で何か言われたときの落ち込みが激しい。元々パワハラ気質な環境だったので耐えられなくなり、結局退職に至った。

  • PMSでイライラして職場の人間関係がうまくいかなくなり、休職した。上司は、PMSは部下の性格に問題があるのではなく、病気であることを理解してほしい。会社も従業員に対し、こういった目に見えない病気(PMSや更年期)に関する研修をしてほしい。

    • PMDD(月経前不快気分障害)…PMSの中でも特に精神的な症状が重く、日常や社会生活に大きな支障がある状態。

産業医・産婦人科医から

PMSの認知度はまだ充分とはいえませんが、最近は外来をしていると、PMSやPMDDに悩み、治療したいという患者さんが増えてきていると感じます。また産業医として企業で勤務する中では、女性従業員の同僚や部下が、女性からのきつい言動や感情の波に困っており、一方で本人は生理前に情緒不安定になる傾向があることを自覚しつつもコントロールできずに悩んでいた、というケースに対応したこともあります。

PMSのイライラや抑うつ、不安感などに毎月悩み続けることは本人がつらいだけでなく、周囲との人間関係に影響し、ワークエンゲージメント(※)を低下させてしまうおそれがあるので、ぜひ婦人科を受診し、治療法について相談してほしいと思います。PMSやPMDDの原因ははっきりとは分かっていませんが、女性ホルモンの変動が関わっているとされており、低用量ピル(低用量経口避妊薬や月経困難症等の治療薬である低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)でホルモンの変動を抑えたり、それぞれの症状に合わせた薬や漢方の処方、また生活習慣を見直したりすることで症状を軽くすることができます。

実はPMSは、産後うつやうつ病、更年期障害との関連が強い、つまりPMSがある人はこれらのリスクが高い可能性を示すデータもあります。かかりつけの婦人科医をつくり、困ったときに相談し支援してもらえる専門家を得ることは、その後の人生を考える上でも大切です。放置せずに、ぜひ早めに相談しましょう。そして男性や職場の方も、生理前に何らかの不調を抱える女性が7割以上であることを認識し、PMSやPMDDについて知識を得ておいてほしいと思います。

  • ワークエンゲージメント…従業員が仕事に対してやりがいを持ち、仕事への活力・熱意・没頭がある状態。
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飯田美穂さん
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 講師

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。