情緒不安定などPMSへの対処法は? 治療法やPMDDとの違い、セルフケアを医師が解説【働く女性の健康相談室②】
PMS(月経前症候群)は、生理の3~10日前から現れる心身の不調です。イライラや不安、抑うつ感など精神的な症状から、頭痛や腹痛、めまいなど身体的な症状まで、人によってさまざまな不調があり、同じ人でも月によって症状が違うこともあります。日本産科婦人科学会によると、日本人女性の70~80%が生理前に何らかの不調を自覚し、5%は重い症状で日常生活に困難を感じているといいます。人間関係や仕事にも影響を及ぼすPMSのお悩みに対して、産業医で婦人科医でもあるイーク表参道副院長の高尾美穂さんが答えます。
PMSや情緒不安定な女性への職場での接し方
女性上司が理不尽に怒りを爆発させることがあり、どう考えてもPMSか早めの更年期だと思います。でも本人は自分が悪いとはまったく感じていません。どうすればPMSか更年期だと自覚してもらえますか?(失礼がない方法で)
これは今後の人間関係を考えると、非常に難しい問題ですね。企業規模によって対応は変わってくると思います。大企業であれば、健康管理室や産業医などに相談して、その専門職から、上司の年代の全従業員向けに、健康に関するメルマガやeラーニングを配信したり、相談窓口の案内をしてもらうといいのではないでしょうか。全員に情報を出せば、間接的に、かつ自然に本人に情報が届きますし、同じような悩みを抱えている人のサポートにもなります。
中小企業の場合は専門部署がないことも多いので、理想としては、上司と信頼関係を築けている同僚や、日頃からコミュニケーションが取れている別部署の人が、専門部署のような役割を担ってくれると角が立ちにくいと思います。こうした人にも頼れない場合は、上司への伝え方に工夫が必要です。「体調が悪そうなので、一度、専門家に相談されてはいかがでしょう」など、具体的な病名を避けた言い方がいいと思います。PMSや更年期といった言葉は、受け取り方に大きな個人差があるため、「体調が悪そう」という表現のほうが相手に受け入れられやすいでしょう。
PMSの治療には低用量ピルや漢方、生活習慣の改善も効果的
生理でお腹が痛いのは我慢できるが、PMSでどうしようもなくマイナス思考に陥るほうがずっとつらい。PMSの治療・予防法を知りたいです。
婦人科ではPMSの治療に、低用量ピルや漢方薬などを使います。PMSは、女性ホルモンの分泌量が急激に変動することが原因の一つと考えられていますが、低用量ピルは変動を穏やかにするので、PMSの症状も緩和されます。漢方薬では、精神的な症状の悩みに対しては、加味逍遙散(かみしょうようさん)や抑肝散(よくかんさん)などがよく使われます。
薬だけではなく、生活習慣の見直しも大切です。運動や栄養がPMSの改善に効果があることが分かっています。例えば、リズミカルに歩くなどの運動は、血流を改善するだけではなく、心を安定させるセロトニンを増やすことも期待できますし、ヨガなどもよいでしょう。食生活の偏りも改善を。カルシウムや鉄、ビタミンDなどはメンタルの安定にも大切な栄養素とされています。
PMSとPMDDの違いとは? 受診の目安と受診先
私はPMSが重いほうで、たまに死にたくなるほど落ち込むことがあり、PMDDではと心配しています。PMSとPMDDの境界があれば知りたいです。またもしPMDDだとして、様子見が長いとどうなるのか、早めに治療すべきか(自然治癒することもあるのか)も教えてください。
PMSの中でも、イライラや気分の落ち込みなど精神面の症状が重く、社会生活に支障が出る場合はPMDD(月経前不快気分障害)と診断され、主に精神科や心療内科で治療が行われます。この方のように「死にたくなる」と感じることがある場合は、医療サイドとしては、うつ病を念頭に対応する必要があります。婦人科でできることとして、PMSのメンタル的な不調に改善が期待できるドロスピレノン含有の低用量ピルの処方が挙げられますが、並行して精神科を受診しましょう。問診、診断を受け、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などを処方されるのが望ましいと思います。
日本では、精神科にかかることを深刻に受け止め、避けたがる人もいますが、海外ではメンタル不調でカウンセリングを受けることはプラスに作用すると前向きに捉えられています。PMDDは自然治癒が難しいとされており、放置すると症状が強くなってしまうことも多いです。ご自身もつらいでしょうから、専門家に早めに相談することをお勧めします。
PMSの予測には基礎体温も参考に
私はPMSで気がつくと周囲にきつい物言いをしてしまうことがあり、PMSの予測アプリを使ったのですが、生理周期が不安定なのでほとんど当たりません。日数管理以外に、PMSを予測する方法はありますか?
PMSは排卵から次の生理の間に起こるので、排卵日を把握できれば、生理周期が不安定な人でもPMSのおおよその時期は予想できます。基礎体温を測り、排卵時期を調べてみるといいかもしれません。
排卵後の、基礎体温が上がる約2週間の「黄体期」が、PMSの要注意期間です。この黄体期の中でも、特に後半にPMSの症状が出る人が多いですが、症状が長めに出る人もいるので、基礎体温と症状をチェックすると、自分の傾向をつかむのにも役立つと思います。基礎体温を測るのは面倒と思うかもしれませんが、最近は舌下で測らなくても、楽に基礎体温を記録できるフェムテックなども登場しているようです。
PMSの相談先とは? 婦人科・心療内科・カウンセリングを活用
PMSについて相談したくても、婦人科の診察時間は一瞬しかなく、とても悩みを聞いてくれるような雰囲気ではない。良い相談先、窓口はあるのでしょうか?
確かに婦人科では診察時間を長く取りづらいため、じっくり悩みを聞いてほしい場合は、企業の健康管理室や相談窓口で、健康管理士や保健師と話してみるといいかもしれません。PMSの中でもメンタル不調の悩みであれば、心療内科の先生が提携している臨床心理士や公認心理師のカウンセリングなどもあります。
PMS期間中の不眠・眠気の原因と改善法
PMS期間中は夜、寝つきが悪くなり、仕事中に眠くなるので困っています。つい会議中にウトウトして注意されましたが、私だってどうしようもなく、つらいです。
プロゲステロンという女性ホルモンの働きで体温が高めに維持される生理前は、夜間にも体温が下がりにくく、深い睡眠を得にくいため、昼間に眠気が強くなることがあります。まずは、睡眠時間をしっかり確保するようにしましょう。寝つきが悪かったり、眠りが浅かったりして「昨日の夜、よく眠れなかったな」と朝に感じた場合は、夜の予定はキャンセルして早めに家に帰り、携帯も見ないようにして、できるだけ早く眠りにつくのがおすすめです。それでも仕事に差し支えるようであれば、例えば低用量ピルを飲めば、生理前の女性ホルモンの揺らぎ自体が抑えられます。お昼の休憩時間に少しお昼寝をするのもいいと思います。
更年期にもつながる? PMSの症状が重い人の特徴と対策
PMSの人は更年期も症状が重いと聞いたことがあります。そうすると私はこれから20年以上、感情の波に苦しむことになるので、薬以外で効果的なケアを知りたいです。
おっしゃるようにPMSがつらい人は更年期にも不調が出やすいという報告はあります。ホルモンの変動に敏感な人は、PMSと同様に、更年期にも症状がつらくなる傾向があると考えられます。
薬以外でできることとしては、生活習慣を整えることです。まずは睡眠時間を確保し、適度な運動をし、栄養のバランスの取れた食事をし、ストレスをためず、心にゆとりのある生活をする――。規則正しい生活習慣を身に着けることは、今後のつらい症状の緩和にも役立つはずです。
日本スポーツ協会公認スポーツドクター・産業医
東京慈恵会医科大学大学院修了後、同大病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て、2013年から現職。専門は女性のヘルスケア。ヨガの指導者資格も持ち、女性の心身をさまざまな角度からサポートする。
(※内容は2025年8月取材時点のものです)