イライラやホットフラッシュなど、更年期世代の女性が抱える悩みについて紹介してきましたが(関連記事:「職場でキレる女性」の原因は性格ではなく、更年期症状の場合も更年期症状で汗が止まらず、恥ずかしくて会議で積極的になれない)、それ以外にも肩こりや腰痛、頭痛、めまい、不眠、気分の落ち込み、関節や手指の痛み、吐き気、下痢、尿失禁や性交痛など、更年期症状は実に多様です。産婦人科医であり、産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生に、働く女性に向けたアドバイスと、職場や上司、同僚男性が知っておきたいポイントについて聞きました。

4コマ漫画。女性「更年期症状=イライラする…なんて安直なイメージだったけど、実際になってみるとヤバすぎ…」不安、関節痛、動悸、うつ、腰痛、めまい、便秘、下痢、発汗、吐き気が襲ってきている。「不調が多すぎて全く対処できない。とりあえず婦人科を受診してみよう…」「今日は早退します」「お大事に」婦人科にて「更年期は人によって幅広い症状が出ます。症状に合わせた治療をしていきましょうね」ほっとする女性
漫画/さわぐちけいすけ

働く女性の声

※コメントは漢字や表現など一部変更しています。

  • 更年期に入って生理不順になり、短い周期で生理が来る上、出血期間も長くなってしまった。そのためトイレに行く回数も増えたが、職場は女性の人数に対して女子トイレの数が少ないため、混んでいると他のフロアまであわてて移動しなくてはいけない。またメンタルの不調もあるが、会社は男性優位で、私自身は管理職のため、年上の男性に「少し具合が悪いくらいで休むなんて」と陰口を言われているのが耳に入ってくるため休みにくい。

  • 更年期症状で集中力が低下した。業務の生産性が下がっていると上司に指摘され、評価を下げられてしまい、仕事へのモチベーションも低下している。

  • 更年期症状を治療するためさまざまな病院を回り、やっと自分に合う対処法が見えてきた。更年期については治療法や対策がさまざまで、周囲の理解も進んでいないので、「私は今、更年期障害で、急に体調を崩すことがあります」と職場で宣言して回り、休暇を取りやすく、仕事量も調整してもらえるよう努力した。このように開き直れる強い人しか、キャリアを続けられないのが現状だと思う。

  • 40代になった頃から強い倦怠感や眠気、頻繁な頭痛に襲われ、働く気力がわかないまま、何とか仕事を続けている状態。更年期障害だと思うが、忙しい職場で人手も足りず、休めないという状況がさらに精神を圧迫している。体力的に負担の少ない部署への異動や、相談できる環境があればいいのにと思う。

  • 更年期症状で自律神経のバランスが崩れ、吐き気で通勤電車に乗れなくなり、仕事を退職することになった。

  • 私の更年期症状はバネ指、冷え性、円形脱毛など。一般的に言われる症状ではないので、人には話せない。

  • 更年期まっただ中で、憂鬱感で何もしたくなくなる、眠い、だるい、頭痛、めまいなどの症状があり、生理前には腹痛、水下痢、お腹の張りなども加わる。仕事をするのがとてもつらい日があるが、管理職で一人職場なので休むわけにもいかず、酔い止め薬と頭痛薬、下痢止めなどをたくさん飲み続けながら働いている。そして私がそういう状態であることを周囲は誰も知らない。

  • 自分の更年期症状と両親の介護、仕事の重圧が重なり、精神的にも体力的にもかなり辛い。

  • 更年期症状で仕事に支障が出ているが、生理やPMSよりも、症状やメカニズムについて男性社員が知る機会が少ないので、体調不良時は症状を説明するのに苦労している。また出勤できないほどつらい時は有給休暇を使うしかなく、使い切れば欠勤となるので昇級も諦めざるを得ない。働く意味、資格が無いように思えてきて仕方がない。

  • 今まさに更年期症状に悩まされているが、更年期の女性の体調不良は「老化」「ヒステリー」などと片付けられてしまう傾向があり、若い女性の健康課題への向き合い方とは差を感じている。生理休暇はあっても更年期休暇がないのは、実は退職を考えるほど深刻な問題。

  • 私は海外の大学を出て、部長になるまでキャリアを築いたが、更年期障害の症状が強く出て退職せざるをえなくなった。今は再就職したくても、年齢のせいで書類選考から落とされてしまい、更年期のせいでキャリアトラックから外れてしまったと感じている。

産業医・産婦人科医から

働く女性へのアドバイス

更年期にあらわれる症状は、血管運動神経系の症状(発汗、のぼせ、ほてりなどのホットフラッシュ、動悸、息切れ、冷えなど)、精神神経症状(イライラ、うつ、不眠、めまいなど)、その他の身体症状(肩こり、腰痛、関節痛、指のしびれや変形、吐き気、胃もたれ、下痢、便秘、ドライアイ、のどの渇き、尿失禁、性交痛など)と幅広く、100種類以上あるともいわれます。そのため「不調が多すぎてどう対処したらいいのかわからない」「受診先がわからない」という声をよく聞きます。まずは、症状に気づいたら記録し、傾向と対策を考えてみるのがおすすめです。食生活や運動など生活スタイルを工夫することで、症状が軽くなる場合があります。そして医療機関を受診する際には婦人科に行き、女性ホルモンの変化による更年期症状かどうか診察を受け、必要があれば、ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬など、症状に合わせた治療を行いましょう。婦人科の症状でなかったとしても、内科や整形外科、耳鼻科、眼科、泌尿器科、精神科などそれぞれの専門医を紹介してもらえると思います。

職場と上司・同僚男性へのアドバイス

平均的な閉経年齢である50歳の前後5年間、45歳から55歳頃を一般的には更年期としますが、40代前半で閉経を迎える女性がいる一方、50代後半で生理がある女性もいるなど個人差が大きいため、本人も気づかないうちに更年期症状が出ている場合があります。また症状の種類が多く、同時に複数の症状を抱える人も少なくありません。「更年期=50歳前後、症状はイライラ」などと決めつけず、年齢や症状、程度には大きな個人差があることをまずは知っておくことが大切です。また「更年期でつらいとは周囲に言えない、休みも取りにくい」と悩みを抱えている女性が多いため、体調が悪い時には支え合う職場、受診や休暇取得がしやすい環境づくりを進めておくことが望ましいです。

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飯田美穂さん
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 講師

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。